これを読む紳士淑女の皆様は、「トイカメラ」の沼へ一度でも踏み込んだことがあるだろうか。非常にチープなつくりで、撮った写真もピンボケで、フレアもひどい…。とてもじゃないが、このような種類のカメラでマトモな写真を撮ろうなんて思わないだろう。
でも、ちょっと待ってほしい。そもそもマトモな写真ってなんだ?どこのどいつが、マトモな写真を撮れって言ったんだろうか。うまいとか下手とか、誰が決めたんだ。好きなものを好きなように撮ろう。自由にやろう。自由であろう。
というわけで、そんなパンクな思想を持っているそこのアナタへこそ、強く勧めたい。私がこの広い広いカメラの湿原へ迷い込んだきっかけとなるカメラを、ここで紹介しようと思う。そして願わくは、これを読んだ皆様のうち一人でもこの沼へくるぶしを突っ込んでほしい。
Blackbird, fly
今回紹介するのはこちら。
その名も「Blackbird,fly」


Blackbird, flyスペック
タイプ:35mm2眼レフカメラ
使用フィルム:35mmフィルム
レンズ:ビューレンズ / f7
テイクレンズ / f7
シャッタースピード:1/125
絞り:f7(曇り)、f11(晴れ)
焦点距離:33mm
ピント:距離目測式(0.8m/1.5m/2m/2.5m/3m/4m/5m/10m/∞)
画面サイズ:24×24、24×36、36×36mmの3種類
重さ:本体 / 210g、ケース/ 130g
私がこの機材に出会ったのは2012年。学生時代に誕生日プレゼントとしてもらったこのトイカメラは、当時ほんのちょっぴりカメラをかじり、なんだったら「3分割構図とか知ってるぜ…」とか吹聴していた時期の私には衝撃である。なぜならこのカメラで撮れる写真は、マスクを使わないと真四角に写る、というとんでもないシロモノだったわけで。しかも画像を取り出すには現像というプロセスを踏む、というこれまた学生の時代にはキツい、もとい学生の頃から投資を積極的に行わせるものであった。
名前もBlackbird,flyと、父の影響からビートルズを思い出させる。余談だが、件(くだん)の曲はBlackbirdという曲で、通称ホワイトアルバムに収録されている。若干の政治色があるので詳細は割愛するが、アコースティックギターによるアルペジオは、なんとも牧歌的で発表から半世紀以上経った現在でも名曲であり続けている。
さて、話題を戻すと、このBlackbird,flyをそもそもどうしてプレゼントとしてもらったか、ということについても触れておく。
前段として、このカメラは、複数カラーが販売されていたが、なぜかマゼンタだけが異常なまでに高値で取引されている。すでにご存じの皆様のことなので、これもあえて深くは触れないまでも、そう、あの国民的ヒーローが実際に使っていたモデルおよびカラーであるためである。世界の破壊者、といえばお判りいただける方も多いだろう。ここまで話せばなんとなーく察しはつくだろうが、私はニチアサが大好きである。
とはいえ、当時の学生の時分、そこまで予算がなかったであろう友人達は、一応その時の二号ライダーポジションのやつに合わせてこの青色を贈ってくれた。本当に感謝である。
そしてなんとなく年齢を重ねた現在、ようやく手元にやってきたのがこちら。

Blackbird, flyの使用感と作例
使用感は非常に平易。撮影には、レンズ横の歯車で距離を調節し、カメラ正面、レンズ横の銀色の出っ張りを下に押し込むだけ。

押し込むと、「カチッ」というおもちゃのような音が鳴り、シャッターが切られる。これでちゃんと1/125が出ているというのだから、すごい…。
上からのぞき込むとこんな感じ。

線は、外側から36×36、縦長長方形で36×24、中央四角で24×24となる。上述したマスクを用いて撮影するが、個人的にはマスクなぞ不要。結局、一般の写真屋さんに現像を依頼する限りにおいては、すべて縦長になる。もっとも、パーフォレーションまできちんと写っているので、興味がある方はぜひそこまでプリントアウトしてほしい。
ていうかポジ使えば一発では…?とか思ったけどフィルムやると現像代がバカにならないので、まぁ、多少はね?
あと、二眼レフなのでしっかり逆像。

こればかりは、もう慣れるしかない。普段一眼やレンジファインダーに慣れていると、どうにも逆像が…という方も、まずはフィルムを入れずに空シャッターを切ろう。楽しくなること間違いなし。
作例はこんな感じ。


このカメラは、シャッターを切った後、コマ送りを手動で行う必要があるが、それを無視してひたすらシャッターを切り続けることができる。即ち、多重露光が簡単に行えるのである。

このような感じで、ピンボケを多重露光でごまかす、なんてこともできるわけで…。
得意なこと・苦手なこと
得意なこと
①多重露光

俗に言う「世界が俺に撮られたがっていない」ごっこができる。冗談はさておき、冒頭でも申し上げたように、とにかくこのカメラは自由である。自分がいいと思った瞬間に一押し。これだけ。何も考えず、とにかく直感的にシャッターを切る。なんだったらファインダーも見ない。切る。この写真もたしかそう撮った。これを使うとき、あなたは自由になる。構図、ライティング、ピント、その他諸々も大事。それらも大事だけど、一番重要なのはシャッターを切ること。これを思い出させてくれる、とてもいいカメラ。
慣れてくれば、こんな感じの多重露光も撮れるわけで。

②一番おいしい焦点距離は10m前後

レンズがプラスティックであり、正直光学性能はよろしくない。個体によっては、無限遠が出ない、なんてこともあるので、個人的には10m前後がいちばんおいしい距離だと思う。一応F11まで絞れば、ある程度画面全体にピントがあう気がする。
苦手
①逆光弱め
上述の通り、プラスティックレンズであり、光学性能は懐疑的。当然逆光には弱く、大きくゴーストが出る。

②ケラれる


トンネル効果、といえば聞こえはいいがケラれてる。なので、四隅までしっかりバッチリ写したい、という紳士淑女の皆様には、若干不満点として残るのではなかろうか。
③合焦写真が少ない
もはやあえて載せないけど、目測だから当然ピントが合っている写真を撮るのは慣れが必要。しかも33mmの広角レンズのわりに、最短距離が80cmなので、あまりマクロも得意じゃないときた。
④暗所の撮影
フィルムのISO感度、シャッタースピード固定を踏まえればある種当然…?
Blackbird, fly入手例
現在は販売元Powershovel社では生産停止。再販の予定もなさそうなので、もし手に入れるとしたら中古市場に出回っているものを根気よく見つけるしかなさそうだ。相場は、状態が良いもので1万円台後半から2万円台といったところ。むろん、マゼンタはその限りではないので注意。
もっとも、中古市場に出回っていて、なおかつ状態の良いものは、比較的鑑賞用に買った、という声が多いようなので(筆者調べ)、新品とはいかないまでも、シャッターを切った回数が少なさそうな個体は比較的多いのではないか。
終わりに
いかがだっただろうか。とにかく感覚的に、自由に撮れるツールであることが伝われば幸いである。構図とかルールとか、所謂写真のお約束は横に置いて、とにかく好きに撮りてェんだ俺はアタシは、という熱いソウルを持った読者の皆様には、是非手に入れてほしい逸品。ピントも、さっきも述べたように、多重露光でごまかせるし、なにより「味」と言い切ればいい。それくらい度量の深い人間性が養われること間違いなし。
トイカメラは、あなたを自由にする。
どうかよいカメラライフでありますように。
コメント
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