めくるめく古の鏡筒たち その9(Nikkor 75mm f2.8 HC vs PC vs P) -An Old Lens, A New Legend-

執筆者:青狐

――じゃあ、見ててください。俺の、MNG。

はじめに

同じような画角、構成のレンズ比較はこれまでにも行ってきた。だが、それはあくまでライカ判での話。例えば、もし同じようなレンズが中判フィルムカメラ用のもので存在していたとしても、同じような比較を行うのか?

自問自答の末、沼人(リント族)としては行うほかない、と判断した。

そういうわけで今回は、以前紹介したブロニカS2の標準域のレンズ3種をようやく入手のうえ、比較撮影を実施したので、それを記録として残したく、寄稿させていただく。ところで、中判フィルムでいう75mmは35mm判換算で41mm相当らしい。まあ標準域、ということでいいと思う。

今回の共通項は、①同じ画角、f値のレンズ、②メーカーもすべてニッコール、の2点。共通項の絶対数は少ないが、とくに今回は、この記事を読んで、どのレンズからブロニカライフを始めるか、を考える契機になってくれれば幸いである。

最近、Kodakから新しい中判フィルムも出たことだし、このタイミングでブロニカファン増加を促進させられる記事があればいいかな、という筆者の淡い想いも今回の記事投稿のきっかけ、ということを余計ながら付け加えさせていただきたい。

機材紹介

手前:P 左奥:P.C 右奥:H.C
上から。
Pを冠するレンズはいずれもすり鉢状。

まず、見た目はほぼ同じ。H.Cの前玉がでっかいくらいで、あとは見た目がそこまで大きく変わらない。まあ、PとP.Cはレンズ構成(4群5枚)以下同一で、レンズのコーティングの有無しか差がないので当たり前と言えば当たり前だけど…。最初に紹介しなければならないのは、このPとかHとかというアルファベットの意味。グロンギのような階級を示す、というよりは、レンズの枚数。つまり、P=Pente=5枚、H=Hex=6枚、というギリシャ数字が使われている。余談ではあるが、4枚ものはQ、となっており、おそらくQuattor=ラテン語、と入り繰りになっている。

以下、筆者が手に入れた順に紹介していきたい。

Nikkor-P 75mm F2.8

数年前に、ブロニカS2を購入した際にもともとひっついていたレンズ。当時は、前から観た際にずいぶんすり鉢になっているのだなぁという感想だった。鏡筒そのものはそれなりに大きいが、レンズ本体は実はそんなに大きくないのは手に取ってみないとわからない。一番最初に入手したレンズということもあってか、それなりに使用頻度が当初は高かったが、徐々にフェードアウトしてきてしまっていた。ちなみに、これも2バージョンあって、7.5cm表記と75mm表記が存在する。

Nikkor-H.C 75mm F2.8

いくつかブロニカ用のレンズを買い増した後、「高級版」のレンズとしての情報を確認し、ネットの海を泳ぎようやく手に入れた一本。スペックだけで言えば、ほぼ変わらない。強いて言えば、レンズ構成に1枚差があるくらい(4群6枚)。にもかかわらず、アウトプットはなんとなく一番好み。最近一番使用頻度が高い。

Nikkor-P.C 75mm F2.8

上記二つを手に入れてから、あとひとつで75mmコンプじゃないかということに気づいてしまったため、しばらく探し回っていた一本。状態が良いのはなぜかプレミアム価格で売られているし、実店舗はもはやそこまでの価値ないだろという値段で売られていて、結構大変だった。とくにP.Cは物欲センサーが強く反応していたようだった。某オープンチャットで筆者が探している旨を表明した直後から値段が上がったのは気のせい?

作例

使用感については、個々の微妙な違いはあれど、いずれもしっかり描写してくれるなあという印象。個人的には、「ぶっちゃけブロニカの75mmっていっぱいあるけどどれがいいのよ?」という人にこそ見てほしい。

以下、撮影条件を列挙。

・H.C→P.C→Pの順で撮影。

・三脚を用いて撮影、できるだけ同じ画面で、同じところに合焦するように撮影。

・SS、絞りは同じ被写体を撮影するときはすべて同じ。

・撮影にはバルブを使用。

・同じラボで現像、データ化を依頼しており、色の出力条件も同じ。

ちょっと多いかも?と思いつつ、全部で8か所での撮影を実施。前半4枚は権現堂、後半4枚は池袋にて撮影。権現堂の天気は曇り、池袋は晴れ時々曇り。                                  

1か所目:権現堂 1/125, f8

HC。
PC。
P。以下この順。

まずは遠景の木にピントを合わせて撮影。早速、緑の発色に差が出てきている。一番見た目に忠実なのは当然H.C。次点でP.C、P。P.CはH.Cに暖色をプラス、PはH.Cに寒色をプラス、というイメージ。あとPは若干四隅が暗くなっている結果に。

2か所目:権現堂 1/125, f8

HC遠景。
PCは黄色の発色が綺麗。
Pは中央解像すごいけど四隅がビネッティング気味?

続いて桜のうすピンクと菜の花の黄色をより対照的に写したくて撮った一枚。HCはなんだか若干色が薄い感じがするけど、PCはピンクも黄色もしっかり出ているような気がしないでもない。

3か所目:権現堂 1/1000, f2.8

HCのボケ。
PCのボケ。
Pのボケ。PCを同じ感じ。

手前に被写体を置いて、開放時の背景のボケ方をチェック。HCは、なんというか光源がひとつひとつ丸いのに対して、PCとPは粒がはっきりしているというか、若干ラグビーボールのような楕円形となっている。

4か所目:権現堂 1/1000, f2.8

HCでマクロ化。
PCでマクロ化。
Pでマクロ化。

クローズアップリングを用いた近接撮影。正直、中央解像はほぼほぼ同じくらい。また、このとき曇天ながらも太陽が画面上部に出ており、撮影したが大して影響はなかった。

5か所目:池袋 1/250, f8

HC。思ったよりアンダー。
PC。建物上部の青いタイルの発色がいい。
P。なぜかちょっと色が飛んでる。

ところ変わって池袋。建造物の解像度の比較。スキャナーとかで変わってくるよとか言われるとまあそうだねとしか言えないのだけども。ちょっとアンダー目に撮った設定だったが、なぜかPだけ色が白くなっている。これは、思い返せばちょっと雲の切れ目から光があったようななかったような…。原因はわからず。ただHC、PCいずれもコンクリートの上からのコケ?の描写は見たまんまだったと思う。

6か所目:池袋 1/250, f11

HC。たしか青空の露出に合わせた。
PC。HCとそこまで変わらない。
P。またなぜかちょっと色が飛んでる。四隅の描写がよく見ると甘い。

これは、「少し絞りを深くするとどうなる?」ということを検証したく行った撮影。どうせ絞るなら遠景の方がいいよね…と5か所目付近で撮影。相変わらずPCはHCより暖色っぽい。また、これでようやくはっきりしたが、PはHC、PCに比べて四隅の解像が甘い。左下の地面の模様は、同心円状に模様があるのだが、その中身の円がPだけよく見えない。PCもそれなりに見えるが、やはりよく映っているのはHC。

7か所目:池袋 1/1000, f2.8

HC。画面端もまっすぐ。玉ボケの形もいい。
PC。画面端に行くに従いやや歪み。玉ボケの形はラグビーボール。
P。PCより歪みがきつい。玉ボケの形はPC同様。

このカットはおそらくもっとも違いが出ていると思う。とくにHC、PCでは、この梟の石像の頭の上の方(梟からすれば顔の後ろ)側が画面端に流れている部分についての歪みが違う。HCの方の破綻がより少なく感じる。玉ボケの形も綺麗な丸となっている。

8か所目:池袋 1/30, f8

HC。PCとの差はほぼなし。
PC。HCと同様。
P。四隅の解像が低い。

最後は、鬼子母神神社の銀杏。四隅の描写はほぼHC、PCともに同程度だが、Pだけ周辺がぼやけてしまっている。おかしい、f8まで絞っているのに…。

以上8か所からの撮影の作例。もしどうしても甲乙を、ということであれば、やはりHC、PC、Pの順に使いたいと思う。個人的には、とくに玉ボケの形と収差の少なさが決め手。なお、あくまでもこれらの撮影は参考程度にしていただけると筆者としてはありがたい。もしかしたら、撮影時のケアレスミスで若干撮影位置がずれている、ということも往々にしてあるためだ。

入手例

レンズによって異なるが、Pは中古市場で多く、PCはたまに、HCはほとんど…という感じ。ちなみにPは1万以下が相場、PCは1万~2万未満、HCは2万以上、という刻み方なイメージ。インターネットや当時の雑誌を読む限り、HCはよくわからない立ち位置にいたとかいう声もあったが、個人的には、とくに梟の石像の画でもって、やはりHCがいいなあと思うことにする。

また、これは個人的な意見だが、とくにHCやPCなんかは、中古のブロニカS2についているレンズをよく見て買った方が、結果的に安く手に入ることもあるかも。最後の手段で、PCをそういう風に手に入れようかなとも思ったが…なんとか単品で手に入ってよかった。

おわりに

今回もまた作例多め。とくにあんまり「映え」ない写真ばかりで恐縮だが、冒頭申し上げた通り、これから中判をはじめるにあたり、ブロニカS2からスタート、ということであれば、是非お気に入りの一本が付いたやつから始められることをお祈り申し上げる。

あるいは、もし今ブロニカを持っているのであれば、是非一度他の種類のレンズと比べてみてほしい。なんとなく、それぞれ違う場面で輝く瞬間があるはずだ。PCだって、暖色が追加されるということであれば、ポートレート撮影にも使えるだろうし、Pだって日の丸構図で撮ってもいい。

肝要なのは、「これが一番いいからこれで」というのではなく、あくまでも「適材適所」という言葉があるように、場面場面で使い分けていったらいいのだ。五代雄介だって、ずっとマイティ、ではなく、ときにドラゴン、ペガサス、タイタン、さらにはライジングまで使いこなしてようやくン・ダグバ・ゼバを除くグロンギを倒していったのだから。

しかし今回はついに3つのレンズ比較かあ。今だから言うけどめちゃくちゃ大変だった。

けど、伝説は塗り替えるものだから、ま、多少はね?

レンズは、あなたを深みへ誘う。

どうかよいカメラライフでありますように。

この沼に住む人
青狐

レンズ沼、カメラ沼に誘い込む狐。フィルムで多重露光大好き。ピンボケ、露出オーバー・アンダーなんでもござれ。

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コメント

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