――勝利を掴めと轟き叫ぶ!
はじめに
赤。
人間が初めて認識する色、だとか、初めて文字に使用した色、だとか、色々な説がある色である。今日では、例えば赤信号とか危険を示す色であったり、トマトとかイチゴとか、おいしさがあふれる綺麗な色であったりといったように、様々な意味が持たせられているが、とにかく、人間においては切っても切れない色であることは自明の理。
今回もまたフィルムの話。
この記事で紹介するのは、世界がずっと夕焼けの世界になってしまったような写りをする、ロモグラフィーのレッドスケールXR。詳しい原理については後ほど紹介したいが、光が強ければオレンジ、弱ければ赤色に倒れるというなんとも摩訶不思議なフィルム。先に言うと、これでしか撮れない風景、というのは特にないけれど、これでしか撮れない空気感みたいなものはあるんじゃあないかと思う。多分。
前回は、ロモグラフィーの不思議な写りをするフィルムを紹介したが、今回もまた変な写りのするフィルムを紹介する。だってフツーの写りをするフィルムについては、この記事を読む読者の皆様の方がよっぽど詳しいと思うから…。
紹介


これを最初に使ったのは実は最近。ここのところ、色々新しいガジェットを手に入れてはいるものの、悪く言えばマンネリ化が進んでいた。モノクロでも金欠からXP2くらいしか使ってこなかったし、そろそろ新しい要素が欲しいな…と思った矢先。この記事を書き始めた頃、ちょうどDigitaLIZA MAXが発表されたころ、そういえば最近ロモのホームページ見てないや…と思って、なんとなく平日の夜にネットブラウジングを開始。そうそう、今度このロモクロームターコイズリバイバルされんだよね…もう予約しちゃったもんね…とかニヤニヤしながら見ていたところ、妙に安いブローニーフィルムがあった。着目すると、なんともエモい作例がたくさんあった。夏の日の昼下がりっぽい感じの橙の色合いというか、子供の頃見たくても見られなかった風景というか。心の中で静かに明日、買いに行こうと決心した夜中だった。
原理
ところで、なぜ赤くなるのか。
これについては、当時のマイクロサイトの魚拓をたどってみたところ、特にそうした記述はないが、「フィルムの感光する面とそうでない面をひっくり返している」、というのがどうやら正しそうだ。
日本写真学会誌のアーカイブによれば、簡単にフィルムの構造を説明すると、ネガフィルムは以下の層で構成されているという。
青感光層(イエロー発色)
→イエローフィルター層
→緑感光層(マゼンタ発色)
→混色防止層
→赤感光層(シアン発色)
→ハレーション防止層
といった順序で成り立っており、光も上述の順序通り通って感光する。しかしこれをひっくり返すと、赤感光層で緑、青を吸収してしまい、結局全体的に赤色っぽく、また、吸収しきれなかった光はイエローフィルター層にキャッチされ、黄色が出てくる、という。
このフィルムに関する海外のレビューサイトの説明では、「フィルムをひっくり返したことで、この乳剤(要するに発色する薬品)が塗られていない面の光がそのままネガに写る」という説明をしているようなところもあったが、それはおそらく間違いで、上述の光の透過の順序によるものだと考えられる。
しかしまあ、フィルムの面をひっくり返してレッドスケールを生み出そう!という発想になったのが正直悔しい。筆者もそのような異次元な発想をしてみたいものだ。
作例
以下、このフィルムの作例を載せていく。当初、このフィルムは「露光量が少ないと赤く、多いと黄色くなる」という評価がいろんなところで見られたので、結構アンダー目に撮ってみた写真が多かった。ただ、現像してみると、下記の例の通り、ほとんど暗くなってしまった。付け加えると、以下の写真はこのフィルムのISOレンジである50-200のうち、すべて200側で撮った時の場合の撮影となっている。
テスト


上記の2枚の写真は、三脚を用いてほぼ同じところから撮影したもので、絞りはf8、シャッタースピードを1/250、1/125で変化させたもの。ちなみに適正露出は1/250。やっぱり一度は夕日を撮りたくなる。が、もともとこのフィルムの触れ込みとして、「露光量が少ないと赤く、多いと黄色くなる」ということだったので、それじゃあどこまで赤くなるのよと試してみたところ、こんな感じの変化があった。もっとも、これ以上暗くしたところ、逆に真っ黒になって何にも面白くなかったので割愛。

逆光のシチュエーションで、これまたしっかり絞った風景スナップ。これもアンダー目に移せば赤くなるやろ…と思ったけど思った通りいかなかった。建物が黒くなって、雲の印影が強く出た一枚。もう少し空の比率を増やせばよかったな、と思うが、これはこれで許容してほしい。
日陰・室内


日陰での撮影はこんな感じ。これも、できるだけアンダー目にして赤くしたろ!という心持ちがあり、適正-1位の明るさで撮影。ものの見事に暗くなった。ただ、鳥居のような朱色は、このフィルムで撮影した場合、ちょっと暗めの朱色として表現されるようだ。

これは室内で撮影。そもそもフィルムは室内苦手、ということはさておき、頑張って適正露出で撮影。この時はとある作品展での撮影(むろん撮影OKのところ)であり、とくに作品に対してスポットライトが当たっており明暗の差は出ていたような雰囲気だったのを記憶している。そのため、手前は暗いものの、作品の置いてある奥側は明るい=オレンジ色が発色されている。
とりあえずの小括として、このフィルムはある程度、ファインダーで覗いた時の画において、明暗の差が大きくないと、レッドスケールの真価である夕暮れ感が出てこないのではないか、と考える。つまり、カラフルなものをはっきりさせるような、ビビッドな発色、というより、モノクロで撮るような感覚でもって使った方がいいのかもしれない。
晴天の屋外
以下の写真は、お台場にて撮影。特に説明のないものについてはすべてISO200の適正露出にて撮影。

この写真は、それこそ日陰側から撮影したが、同じ画角内でも明暗がはっきりしているところを選んで撮影。前日の雨による水たまりのリフレクションもいい具合に写ってくれた一枚。



それぞれ、海と空、そして逆光からの建物を撮影。繰り返すが、モノクロフィルムでいうところの白色~灰色に相当するところが、オレンジ色~黄色として発色されている。

意外なことに、この自由の女神像を緑青色は、かろうじて緑色が見えなくもない。蔵の左下の葉っぱの緑は黒、というより焦げ茶色に触れてしまったが、なぜかこっちは緑の要素を残している。不思議だ…。

この写真は、こないだの鳥居よりもはっきりした赤をこのフィルムで撮影したらどう発色するのか、ということを試した一枚。赤は赤として描写されているが、それ以外の茎、葉の部分がオレンジ~茶に倒れている。予測ができなかった。

次は、いっそ滅茶苦茶明るい被写体はどうか、ということでちょうど可能性の獣がすぐ近くにいたので望遠レンズにて撮影。露出計は、白いものをグレーに写そうとするものらしいので、これだけたしか+1くらい明るくした記憶がある。白がいい感じに黄色~オレンジに発色してくれて、結構思い通りに撮れた一枚。後ろのUNIQLOの看板の赤もほぼ見たまんまの赤に近いのではないかと思う。

もう閉館になる、という同行者からの情報を基に、せっかくだからと撮った一枚。室内+電球の組み合わせは撮ってなかったなと思い、適正-1位で撮影。光の強弱によって、ライトの発色も異なることが改めて確認できた。
入手例
ロモグラフィーの公式から販売されている。執筆当時の価格は、ブローニーフィルム3本で約3,000円、35mmの3本で約4,500円。なぜかブローニーフィルムのほうが安い。仮にこれも単にフィルムの裏表をひっくり返しているという噂通りだとすれば、そこまで高いのはどうなのか?とも思ったが、一方でロモの35mmのISO400も3本で約5,000円なので、おそらくこれをひっくり返しているのだとすればまあ価格帯的にも同じか…?とか色々推論はできるけど詳細は不明。
おわりに
引き続き、作例が作例になっているのか怪しい。ズブの素人が撮っているのだからそこは大目に見てほしい、というのは甘えなのだろう。お見苦しいものを見せて申し訳ない。
また、今回の作例はすべてブローニーフィルム。なぜかといえば、35mmは使うには高すぎるという筆者の貧乏性ゆえ。フィルムはランニングコストがバカにならないのでこればかりはしょうがない。それに、最近ブロニカのレンズも買い増ししたので、それも併せて試したかったというのが本音。
それこそパッケージにあるような、逆光のシーンで使ったら結構なエモを引き出せるのではないか、と勝手に想像している。とはいえ、今回の投稿で筆者の逆光写真は伸び代がまだまだあることがわかった。これも反省したい。
さて、今回のサブタイトルは筆者が一番大好きなシリーズからもじった。師匠とのしがらみを乗り越え、最後は培った技で戦い、勝利する。もちろんそこに至るまでの過程は一見の余地ありだが、序盤は正直冗長なところもあったし、なんだったら主人公がひねくれているのがちょっと、という風に見られがち。でもギアナ高地での修行を経て明鏡止水の心を手にした以降の彼は本当に素晴らしい。なお、最終戦での叫びは中の人の喉にダメージを与えたらしい。
ホントは、「真っ赤な誓い」とか「ルージュの伝言」とかいくつか候補はあったけど、前者はなんかもはやもはやいにしえのネットミームすぎるし、後者はもう写真とそんなに関係ないし(!)、ということで、なんとなくキャッチーなこれにした。
見よ!東方は赤く燃えている!
フィルムは、あなたに世界の残し方を決めさせる。
どうかよいカメラライフでありますように。
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