大衆機を使おう!~35だけがシグネットじゃねェんだワ~

執筆者:内匠亜

 会社員しながら昆虫の研究をしつつ珍奇植物を集める傍ら、古いカメラを文化財保護とか動態保存とか言って集めてるワタクシ内匠亜(タクミア/タクミャー)はいわゆる”ハイエンド”なカメラを一切所持していないタイプのコレクターである。

 フィルム/デジタルを問わずカメラ好きは集まれば大抵「どこそこのメーカーが優れている」だの「このレンズがやはり至高」だのといった緩やかな宗教戦争を繰り広げているわけだが、しかしその一方「フィルムメーカーといえば?」という質問に対しては大体同じ答えを返すのではなかろうか。

 国内なら富士フイルム、コスパならLomography、モノクロはイルフォードと言った具合に多少好みの差はありこそすれ、ほとんどの人間はKodakの名前を出すはず。

 ColorPlus200はいつだって私のようなプアマンに暖かく寄り添ってくれるし、M型とライツレンズしか使わないタイプの人もPortraかTMAXがあればにっこりだ。フィルムに触れた人間なら誰しもロチェスターに足を向けて寝られないってもんである。

 さて、そんなKodakがもしもカメラを作ったのなら、それはもう素晴らしい機体が完成することは誰の目にも明らかじゃあないですか。

 というわけでKodakが作ったカメラの話をします。

 ちなみにSignet35でもないしメダリストでもないしエクトラでもないです。あとヴェスポケでもない。

Signet40基礎スペック

・製造年…1956~1959年

・レンズ…Kodak Ektanon 46mm f:3.5(3群3枚・最短撮影距離2feet)

・シャッター…Kodak synchro 400 shutter(1/400~1/5, B)

・絞り…3.5~22(構造上クリック感が強く、中間値は出しにくい)

・注意点…シャッターチャージとフィルム巻き上げが別機構

操作感・デザインについて

 さて私の手元にあるのはかの有名なSignet35……の後継機、Signet40である。前機種に比べ全体的に洗練された、モダンな雰囲気を感じさせる独創的なシルエットは思わず撫でまわしたくなる。

 またボディの大部分がベークライト製であるため、感動的に軽い。

 基本的な操作系はSignet35から引き継いだまま、つまり、フォールディング/蛇腹カメラのように基本操作が前面に全て集中した構造となっている。

 正面から見て鏡筒左上にあるレバーがシャッター、その下にあるノブがピント調整ノブとなっている。反対側にはシャッターチャージ、レンズ上にはシャッタースピードと絞り調整ノブという配置になっており、これが意外と操作しやすい。

 フィルム巻き上げの部分が特殊な設計となっており、一般的な位置にある巻き上げノブを巻くことには変わらないのだがなんと3回巻き上げなければならない。しかしその分動かす角度は小さく、感触も軽く、かえって軽快な印象を受ける。

革ケース

 本筋からそれるが、本機を購入した際極めて状態の良い革ケースも付属していたので紹介(自慢)させていただきたい。

 Kodakのロゴが実に輝かしい。底面には金箔押しで名前が書かれていたが、これがどういった理由で書かれているのかは知らない。記名サービスでもあったのだろうか。それにしても非常に良好な保存状態だ。

 一部の機種を除き、一般に当時物の革ケースはあまり大事に扱われていないだろう。もちろんケースであるからして扱いは半ば消耗品かもしれないが、革のケースは適度に手入れしていくことで長く使うことができる。ぜひ使ってみてほしい。

Signet40作例

 ちなみに、使用フィルムはKodakのColorPlus200である。Kodak大衆向けシリーズ同士の組み合わせ相性やいかに。

Signet40, Kodak ColorPlus200

 Ektanonの優秀さが見て取れる一枚。中心解像度は非常に高く、苔や水滴の粒さえありありと描写して見せる。

Signet40, Kodak ColorPlus200
Signet40, Kodak ColorPlus200

 本機のEktanonはアトムレンズであり、私の持っている個体もレンズにうっすらと黄変が発生しているように見える。ColorPlus200の質感も相まってノスタルジックな情景が生まれた。

 またSignet40はシャッターが軽く、非常に静かで押しやすく手ブレしにくいという特徴がある。スナップにも向くだろう。

Signet40, Kodak ColorPlus200
Signet40, Kodak ColorPlus200

 最初の方に示した作例では解放で撮影したため、やや周辺が流れている。しかし上に示した2枚のように、絞れば当然周辺部まで引き締まる。

Signet40, Kodak ColorPlus200

 なんというか、路地裏と相性のいいレンズだ。Signet40には暖かい光がよく似合う

 個人的にお気に入りな作例をピックアップしたところ、いずれも色温度低めな情景であった。解放近くではトリプレットらしいボケも相まって暖かで穏やか、なのにどこか寂しさを感じさせる描写をする。

Signet40, Kodak ColorPlus200
Signet40, Kodak ColorPlus200
Signet40, Kodak ColorPlus200

 3枚目の写真は最短距離・解放・シャッタースピード1/5である。本機のシャッターが押しやすいことを示す好例だろう。気合とほんの少しの祈りがあれば手持ち1/5ですら可能とする性能(祈り優先手ブレ補正)、Kodak神がお造りになっただけはある。

35だけがSignetじゃねェんだワ

 Signet35がもてはやされる理由として、やはりEktarの存在が大きいのだろう。なにせ同機のレンズ部分のみ外したモノがミラーレス用に高値で売られているくらいである(ああいったものを見ると何となくさみしい気持ちになるのは何故だろう…)。

 しかし、Ektarに手が出なくてもEktanonならきっと手に入れやすいはずだ。

 Signet40は知名度の差も相まって、各所でかなーり不当に安く売られている。私の個体も5000円しなかったが完動品であった。

 Ektarから1枚減ったとて、Kodak神の創造物である。むしろ最近好まれるのはトリプレットの描写ではなかろうか。レンズの実力だけで上に紹介したような写真が誰にだって撮れてしまうのだ。

 残存数も多い本機を手に入れるハードルは決して低くない。ライカは一旦脇へよけ、やっすいフィルムを詰めたやっすいカメラを使うのはいかがだろう。きっと楽しいはずだ(軽いベークライトカメラは首と肩にも優しい)。

参考サイト

 私がSignet40を購入する際非常に助けとなったサイトがあるので紹介させていただく。 語り足りなかった個所やKodak他機種との比較など、非常に見ごたえのあるサイトとなっている。是非こちらも読んでいただきたい。

この沼に住む人
内匠亜

フィルム専門、露出計非搭載原理主義過激派。コンテッサよりイコンタ35でローライ35よりローライC35でペンタックスSPよりペンタックスSL。
1940s~1960sのマイナー機及びその革ケースを愛してやまない趣味人。どっちかというとレンジファインダー派

執筆者:内匠亜
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カメヌマ

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