以前(少し下のリンクを参照)、流行を意識してシャボン玉ボケの出る(とされている)標準域のレンズの紹介をした。実際、PancolarもOrestonも、まさにこれからの時期にうってつけのレンズだと思う。紅葉、イルミネーション、なんだったら銀世界…。まああんまり寒いと取り扱いには注意してほしいものだけど、とにかく、こう自然とカラフルな光源がたくさん背景に入ってくる時期には、極力ボケの綺麗なレンズを使いたくなる。
ある意味50mmは、もう標準域中の標準、と言っても差し支えない範囲の焦点距離だと理解している。やきうで言えばど真ん中ドストレート、って感じの勢いを持つ。多分各メーカーで出しているレンズもなんだかんだ50mmが多いんじゃないかってくらい、F値、デザイン、性能違いの50mmがそれはまあ多く出回っている。かくいう筆者も、いろんなメーカーのいろんな50mmに手を出している。前回紹介した2つだけでなく、ヤシノン、タクマー、ペンタックス等、なぜか違いを求めて買い集めてしまうほどに、魅力的な焦点距離なのだ。
さて、長々と50mmの話をしてしまったが、今回はそれよりも55mm長い、M42マウントのレンズを紹介したい。今回は、やや短めになる予定。だけど、なんとも不思議な焦点距離のレンズの魅力を伝えられれば幸甚である。
<機材紹介>


対応マウント M42マウント
フォーカス MF
レンズ構成 4群5枚
絞り羽根枚数 6枚
最短撮影距離 120cm
開放F値 F2.8~22.0
最大径×長さ 57 x 63mm
フィルター径 49mm
重さ 278g
筆者の購入経緯について。いわゆるバブルボケにハマっていた頃、標準域のレンズを多用していた。なんだかんだ近接撮影もいけるし、撮影の基本は被写体に寄って行うことだ、というポリシーを持っている筆者としては都合がよかった。ある日、親友の結婚祝で撮影をすることになり、そうはいっても物理的に近づけないケースがあるのではないか?という壁にぶち当たった。
現代は便利なもので、手元のスマホで調べると、そういうときには望遠寄りのレンズを使えばいい、という答えにたどり着いた。もちろん持っていないわけではなかった。青狐(AOCo)を名乗る以上、件(くだん)のDFA★の望遠レンズを所有しているが、あれはあれで重いし、当時は夏で取り回しが大変だったし、何よりあまりにもゴツゴツしすぎていて、いかにも!ワシはフォトグラファーである!という某男塾塾長のような威圧感で親友らを委縮させてしまうのではないか…?という懸念もあった。
そこで、思い切って未来の新郎新婦に、ぶっちゃけどんな風に写りたい?と聞いてみた。すると、「ふんわりとしていて、それでいてべたつかない」写真にしてほしい、という(どこかで聞いたことあるような)オーダーがあった。なるほど、じゃあもうオールドレンズも視野に入れてみるか、ということで望遠域の単焦点オールドレンズを調べてみた。ぱっと見自然な大きさのものがあったので、それにした。それが、SMC Takumar 105mm f2.8だった。その他、既に所有しているKマウントの135mmf2.5も候補に挙がっていたが、あれは、ちょっと前にズズッと突き出している格好となり(※筆者の主観)、かつ重さも500gと、レンズが詰まっているだけあるのか、相応に重かったので、今回はM42マウントのレンズをお迎えすることになった。
<使用感と作例>
使用感については、ちょっと標準レンズよりはレンズそのものが長いかな…?と感じるけどそんなに違和感なく使える。ただしファインダーを覗いた時にぎょっとするくらい望遠なので結構驚く。個体に依るのだろうが絞り環、ピントリングはものすごくスムーズ。K-1Mk2に付けた後も望遠、ということを意識させずにコンパクトな形でまとまっており、被写体に撮影されていることを意識させずに撮れたと思う。ただし、このブログで紹介するのは上記のポートレート撮影ではなく、また別の機会に撮影した写真であるため、ご了承願いたい。




これらはテスト撮影の時の画像。シチュエーションとしては、夕暮れ+逆光多め、というそもそもカメラがそんなに得意とする場面ではなかった。それでもやはりSuper Multi Coated、といったところだろうか、そこまで変なフレアとかゴーストは出なかった。逆光においても、妙な写りはせず、極力自然な(?)写りをしてくれた気がする。
ピント部もそれなりにシャープ。発色はなんというか、当時のタクマーレンズ特有の、なんとなく青白い色というか、若干色乗りが薄く、コントラストも弱い、よく言えば文字通り「ふんわりとしている写真」にはなる。相変わらず素人なので詳しいことはわからないが、まあデジタルで撮影してれば後からいくらでも補正は効くのでセーフ。


こちらはほぼ順光・半逆光での撮影。やっぱり発色はペール寄りだけど、そもそもフィルムでの運用を前提にしているのだから、それはそれで当たり前だし、だとすればもう生産から半世紀以上(1971-1975の間とのこと)経っているのにしっかり解像しているということを踏まえれば、十分お釣りがくるレベルだと思う。
<入手例>
中古市場でよく見かける。それも安価であるため、入手難易度は低いと思う。相変わらずコスト相応のアウトプットだと思うので、望遠オールドレンズの第一歩といっていい。中古市場に多く出回っているということは、それだけ当時人気だったということだし、万一のことがあっても再調達が可能なのは嬉しい。ただし、このモデルも複数年に渡って微細なモデルチェンジが行われており(初期は4枚4群、SMC化前はレンズのコーティングがない等)、その違いを求めるのは、それなりに時間と金があればやってみてもいいかもしれないが…。ちなみに、個人的な意見ではあるが、もしもう一癖欲しい、ということでTakumar 105mm、Super Takumar 105mm等の以前のモデルをご所望の方は、購入前によくレンズを確認することをお勧めする。
<おわりに>
いかがだっただろうか。相変わらず拙い作例で申し訳ないが、だいたいこんな感じで写る、ということをお見せできたと思う。
105mm、と聞くと、どうしてもあの中判の名レンズを思い出してしまう。あれはあれで多くの写真家が作品を撮影しているが、今回紹介したフルサイズ用のレンズは、実はそこまで知名度高くないんじゃないか…?と思ったら、各所でトリオプランのようなレンズ、という記事を見かけた。でも実際にはあのMeyer-Optikのトリオプランは凸凹凸の3群3枚で、こちらは4群5枚と、そもそも構成が違うので、あそこまで輪郭のはっきりしたバブルボケは出ない。
とはいえ、M42マウントのレンズにはロマンがある。現在販売されている高性能なレンズにはない、ともすれば若干思うように写らないレンズ。だがそうした、不自由なレンズこそ、何でもかんでもしっかりばっちり写すことを目的とした現代のレンズでは写せないものを写す力があるのだと思う。なんともファンタジー溢れるマウントではないか。
ファンタジーといえば、筆者は小さい頃、はやく大人になりたいんだ、と思っていた。なぜだかわからないけど、なんとなく大人になれば、何でも自由にできるのだと夢想していた。無根拠に未来への憧憬を抱いていたわけだ。現在、恥ずかしながら年齢を重ね、様々な経験を経て、それなりの社会的地位も手に入れ、平穏ながら幸せな人生を送ってこられた。改めて、周囲に恵まれている幸運に心から深い感謝をするとともに、一方で、もう一度子供に戻ってみたい、というどうしようもない郷愁に駆られることがある。一日だけでも戻れないかなァ…。
昔、筆者が子供だった頃、ポケットに入れてたたくさんの宝物が、今でも時々顔を覗かせるのだ。昔の子供、今の子供、ポケットの中身はいつだってファンタジーに溢れている。今はカメラがとても好きになったし、それを通じて数多くの同志や素晴らしいレンズ、機材に逢うこともできた。それゆえ色んな沼に浸かりすぎた筆者にとって、今はマウントにもファンタジーを感じているのだ。昔のレンズ、今のレンズ、マウントの先にはいつだってファンタジーなのだ。
レンズは、あなたを深みへ誘う。
どうかよいカメラライフでありますように。
「めくるめく古の鏡筒たち」シリーズは他にもありますので、こちらもぜひ合わせてご覧くださいませ。
コメント
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