めくるめく古の鏡筒たち その7(Voigtländer 40mm F2 Ultron SLII) -エイジ・オブ・ウルトロン-

執筆者:青狐

――だがあの沼を一歩でも進んだら、君も沼人(アベンジャーズ)だ

はじめに

旅行がしたい。

思うに、人は自分の今いる環境に満足か不満足かを問わず、少しの間だけでも「非日常」を味わいたいと思うのだろう。だから人は旅に出る。旅…といってもそんな壮大なものではなく、いわゆるショートトリップというような、期間的には長くても2泊3日がちょうどいい。別にソコヴィアじゃあなくていい。それこそ埼玉とか東京とか、神奈川とか栃木がいい。

とはいえこのご時世。流行り病により行動が制限されている中、できるだけ旅行に行ったつもりで何ができるのか、といえば、「旅行に行くとき、どんな装備で行こうか」ということを考えるのも一興ではないだろうか。 今回紹介するものは、旅行に持っていくには最適な重さ、画角、そして懐の広い単焦点レンズ。それもあのフォクトレンダーから発売された(他のマウントと比べて流通量の少ない)レンズを紹介したい。

機材紹介

Voigtländer。

初見で読むにはドイツ語の知識が必要だろう。馴染みがなければ、「ヴォイクト…ランダ―?」と読むこと請け合いだろう。とくにaの上に乗っている目玉みたいな点々はいったい何だろう、と首を傾げること間違いなし。これは、ウムラウトといって、記載されているアルファベットの母音読みにe(え)の発音を組み合わせた記号。つまり、「ア」と「エ」の発音を同時に口から発する、ということになるため、結果として「エ」みたいな発音となる。また、Vはドイツ語圏ではFと同じ読み方をする。また、Voigtはドイツ語圏の姓であり、正しくはフォークト、と読む。

そして気になるUltron(ウルトロン)。

トニー・スターク氏(原作だとハンク・ピム博士)が開発したロボット…ではなく、ダブルガウス、左右対称のレンズ構成を指すらしい。フォクトレンダーの大口径ダブルガウスレンズをUltronと呼んでいるらしい。日本企業であるコシナが引き継いだ後も、コシナ社製のUltronが世に出回っていたと考えると、やはりレンズづくりは非常にコストがかかるが、(一部の)社会的に非常に意義のある事業だと言えるだろう。

ちなみに筆者はMCU派である。

とりあえず読み方とか名前のイジリはこれくらいにして実物とスペックを見てみたい。

まずは外観。
キャップ外し。
フード外し。
アタッチメント付与。

対応マウント      Kマウント (KマウントはKingのK)

フォーカス          MF

レンズ構成          5群6枚

最短撮影距離      38.0cm(アタッチメント付与により25cmまで寄れる)

開放F値             F2〜22

フィルター径      52mm(フジツボフード前)

重さ      200g(フジツボ+レンズ付与で260g)

絞り羽根    9枚

まずはこのレンズを購入したきっかけについて簡単に述べさせてもらいたい。筆者は名前の通りPENTAXが好きだ。そのため、FA Limitedシリーズは全部持っているが、それでも買い足したくなるのは沼人の定め。たしか昨年夏前、Kマウントのパンケーキレンズなるものをカメラ屋さんで見つけ、手に取って、なにこれエモい…という感情が芽生えた。奇しくもその当時、LC-A+にハマっていた時期であり、コンパクトさがとても軽快に見えた。ただし、目の前のレンズも40mmで、画角も先に述べたFA Limitedがあるため、このレンズを購入する意義とはなんだろうか…頭の上に「?」が出てきた。31mmも43mmもある。ここで40mmを買う理由ってなんだろう…という沼人にはあるまじき思考があった。そのため、その時点においては40mmのレンズの購入は見送ってしまった。

やりきれない欲求不満を抱えて生活していくうち、必ず湧く好奇心。アレで撮ったらどんなのが撮れるのだろう。おそらくこの感情に克てる人はいない。結局インターネットでパンケーキレンズを探しているうち、見慣れないメーカーのレンズにたどり着く。フォクトレンダー。一目惚れだった。何より後述するアタッチメントがあって、それでさらにスペックを伸ばせる懐具合に身を委ねようと思ったのだ。自分の誕生日だからという言い訳のもと、できるだけ状態の良いものを見つけ、無事購入。 初めて見た時は、当然ながらものすごくコンパクト!という印象。全長も写真の通り、約10cm程度のダンボーの半分以下の大きさで、妙なフードもついている、と非常にそれまで見たことない奇怪な形をしている。実際、200g程度しかないこのレンズも持った時はなんだか心もとなさまで感じてしまった。しかしその感情は本体につけることで霧散していった。

現役選手とともに。

堂に入(い)っている。

Planarほど沼深くはない印象で、どちらかと言えばお気楽にスナップを楽しんでいるよ、と、周囲に「深さ」を見せない工夫が施されているのではないかと勘違いさせられるほどかわいい。これもある意味ひとつの到達点なのだろうか。つけても重さをほとんど感じず、長時間首から下げていてもそこまで負担感は大きくなく、携帯性は非常に高い。当然ながらMFレンズであるが、それでも絞り自動が使えるので便利。また各種リングも適度なトルク感がありつつ軽く回るため、操作するだけで写欲をくすぐる。

最後の写真にある、アタッチメントレンズをつけてみたものについても、結局はレンズ1枚をはめ込むだけなので対して大きく重さは変わらない。いい…。

シチュエーション別作例

今回も、複数の場面から撮影を実施。ただ、今回は冒頭にて旅行に関する話題を出したこともあり、できるだけ日常感+非日常感のバランスを取りつつ作例を選定したつもりなので、是非筆者の追体験を感じ取っていただけると幸いである。

室内

食べたいものを作った日。

朝から夏のうだるような暑さの日。午後から雨模様になると聞いて、なぜかどうしても桃のパフェが食べたくなり、無心で作ったあと我に返って撮影した1枚。ランチのデザートに食べたため若干光が暗い。たしかアタッチメントを付けて撮影。思った以上に解像具合は良かった。

モノクロフィルム

新宿のプライベートアイズといえば…
リコペンフォーラムのあるビル。夏空グラフィティ。

入手したての頃の季節は夏。ガンガン外に出て、LX+Ultron+Ilford Pan400、という沼の底みたいなセッティングが非常に気に入っていたらしく、この頃やたらモノクロ作品が多い。ビルの壁面を見る限り、このレンズ、グラデーションもそれなりに出せるようだ。しっかり絞って撮ってみた。

旅行

室内。
たしかエール。開放のピント面の薄いこと。
昔住んでた英国はこんな霧の日ばかりだった。
郷愁に駆られて撮った一枚。

福島のブリティッシュヒルズなるところを旅行した際にこのレンズを携行した。選定理由は一つ。軽いからである。軽いし、寄れるし、精度もいい。なら旅行にはこれだよね…となった。当時の同行者からも荷物が少ないことを理由に、筆者が荷物運びをさせられたのである。

現実は非情である。

花マクロ

ベコニア。なんというか…寄りすぎた。
赤。
ボケもしっかり溶けている。端の玉ボケも歪みがない。
背景は滲んでいる。
内部の全体感。
縦構図。

栃木の花いちもんめという施設を見学した際に併設されていたベコニアを撮影。内装の写真以外はすべてアタッチメントを付けたマクロ撮影。正直、この手のレンズを介した場合、なにか画質に影響が出ることが想定されたが、ピントが合焦しているところもしっかり解像しており、筆者としては非常に満足のいく結果となった。

入手例

中古市場で見つかったらラッキーなレベルでほとんど見かけない。元々流通量は少ないので致し方ないが、見つけて、もし欲しければすぐ買ってしまうことをお勧めする。あってもそこまで値が下がらない、と思うかもしれないが、アウトプットは素晴らしい。

素人ながら、Planar同様、高いだけの性能は当然持ち合わせたレンズだというのは間違いないと思う。しかも最短撮影距離25cmまで寄れて、かつ人間の視覚に近い40mmでの風景撮影は説明のしづらさがある生真面目さを感じる。

あと特筆すべきはそのコンパクトさ。いざ旅行に行くとなると、どうしてもいっぱいモノを持っていきたくなる気持ちは十二分に理解しているつもりだが、そうはいっても限度がある。その限度を迎えても、なお入るだけの小ささと描写は持っていないと味わえない。とくに旅行となると、グルメや風景なんかを写真に収めたくなる。そんなときに、両方いけるこのレンズが一個あるだけで、満足度も変わってくること請け合いだ。ただしスナップはデジタルのAFに慣れてきた方にとってはちょっと難しいかも。MFがいいんだ!という方は…沼人の素質がある。マニュアルでじっくり被写体と向き合うことで、旅の気分を盛り上げてくれること間違いない。

個人的には、玉ボケ等の表現から一歩踏み出したい方にお勧めしたいレンズ。構図とか描写、ハンドリングは筆舌に尽くしがたい魅力がある。40mmという広角と呼ぶには若干標準だけど、標準じゃない。まさにバートンからワンダが叱咤激励を受けて、ウルトロン達との闘いに往かんとするような感じ。一歩外に出たら、君は沼人だ。

おわりに

いつもながら拙文で申し訳ない。

そもそも、今回の題材であるUltron 40mm F2 SL IIはオールドレンズなのか、という前回と同じ問題があった。これも平成に出たマニュアルレンズだし、なんだったらちゃんとCPUも入っているし云々、と、まあ色々考えたけど、こまけぇこたぁいいんだよ!の精神で本稿を投稿した。

今回の元ネタは、ご存じマーベルシリーズの映画のタイトルからもじった。まさかここまで見事に被るとは…。いつか絶対書いたろ!と思っていたけど、単に作例を紹介するのだとちょっと違うな…ということで、「どういう場面に持っていきたいか」を考えて紹介してみた。くどいようだが、このレンズは旅行向き。軽い、小さい、マクロいける。さらに40mmなので風景もまあいけるし、ポートレートも開放あるしいける。

じゃあこの一本でよくない?という声もあるかもしれない。

でも、うーん、そうじゃあないんだよなぁ…

レンズは、あなたを深みへ誘う。

どうかよいカメラライフでありますように。

この沼に住む人
青狐

レンズ沼、カメラ沼に誘い込む狐。フィルムで多重露光大好き。ピンボケ、露出オーバー・アンダーなんでもござれ。

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カメヌマ

コメント

  1. […] 確か前回もそんな感じの書き始めだった気がする。 […]

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