――バカニスナーイ!
はじめに
まず90mm f3.5というレンズの存在を認知したときのファーストインプレッションを紹介。
90mmと聞くと、若干「え?望遠?」となる焦点距離だったりする。いつぞやに紹介した105mmよりも短く、FAlimited77mmよりは長い。とはいえ77mmも中望遠、という区分になるし、そもそも105mmも望遠というにはいささか短い。だとすれば区分としては中望遠でよいのだろう。
しかし、たまたま挙げたこれら二つのレンズは、いずれも単焦点という特徴をしっかり出して、開放f1.9,2.8と結構明るい。それに比較して3.5、と聞くと、どうもレンズキットとして売られている標準ズームの広角側の開放の数値が頭によぎる。正直、なんでこんなに単焦点なのに暗いの…?というネガティブな印象を持った。
しかし、このf値でよかった。素直にそう思う。
機材紹介
今回もVoigtländer。


相変わらずフォクトレンダーのレンズは名前が面白い。
このApo(アポ)とは、赤・緑・青の所謂三原色の光に対して色収差(最近でいえば色ずれ?という言い方がわかりやすいだろうか)を補正した光学設計の意味であり、要するに高性能なレンズである。最初聞いた時はアポの坂田…?とか小ボケを挟みたくなるネーミングだったが、本当に笑ってしまうくらい高性能なレンズだった。
実際、レンズの先端部にも、三原色の三本線がしっかり入っているのもポイント高い。余談だが、このレンズのアップデート版のSLⅡは、全く同様のスペックでマクロレンズ装着可能なのだが、残念ながらこの三本線が入っておらず、真っ黒なレンズ。正直、見た目で選んだフシはある。
なお、このアポランターが初めて搭載されたのは、6×9のBESSAⅡであり(どうやら全三種類、うち一個がアポランター搭載版らしい)、今でも中古市場を賑わせているとか。
それでは今回も恒例のスペックを。
対応マウント Kマウント (KマウントはKingのK)
フォーカス MF
レンズ構成 5群6枚
最短撮影距離 50.0cm
開放F値 F3.5〜22
フィルター径 49mm
重さ 390g
絞り羽根 9枚

いつも通り購入経緯について。筆者はペンタックスファンであると自負しており、K-マウントのレンズがとても好きだ。ご存じの通り、K-マウントレンズはサードパーティーがほぼ製造しておらず、探すのも一苦労、というありさまであるがそれでも好きなものは好きなのだからしょうがない。
この度、また花の開花シーズンを迎え、冒頭で述べたような中望遠~望遠と呼ばれる域の単焦点レンズを探していた。去年はコロナのせいであまり梅やら桜やらを撮影できておらず、今年こそは、という意気込みでK-マウントレンズを捜索。もちろん、既存のレンズを用いての撮影も行うには行ったが、中望遠レンズの宿命である、「実はそこまで寄れない」問題を抱えることとなった。ウルトロンのときのマクロ感よかったなぁ…でもあれいちいちレンズつけんのめんどくさいな…というとてもわがままな願望があった。
そこで、ほぼ同じ焦点距離のレンズで、かつ最新のDFA100mmの購入の検討もしたが、なんというかこう、「あまりに強すぎる」という既知の事実よりも、「どんな写りがするのかわからない」「情報が少ない」という理由から今回はこのレンズの購入に踏み切った。

届いてみて開封すると、値段以上に状態が良かった。いや、良すぎた。前のオーナーはこれをほとんど使っていなかったのだろう、手汗の痕跡やレンズ内に通常あると思われるチリの類が一切なく、専用フードも残っていた。
一番に目についたのがこの三原色の三本線。先に述べたように、SLⅡよりこちらを採用したのは、まさにこれが見たかったからである。銀の部分が残っているこのレンズのクラシック感もたまらない。なお捜索にものすごく時間がかかったのは内緒。
作例
今回の購入には、春の花々をこれで撮影するという明確な撮影用途があった。そのため作例もほぼ花の写真である。実際、9枚羽根であり、絞ってもそこまでボケが破綻しないのも素晴らしかった。
近接




まずは開放域での撮影。冒頭申し上げたように、開放3.5って意外と暗いのでは?という懸念があったが、筆者のような初心者には、極薄ピントよりも合焦する範囲が広く、例えばめしべにピントを合わせても、花びらまで入ってくれるのはありがたい。開放から性能がピークに近い性能で、正直最初はピーキーなレンズかな?とも思ったが、非常に素直な描写をしてくれる。望遠もあって背景ボケも柔らかいように思う。
特に上の紫の花の写真は、開放f3.5で撮影したが、背景の光源も若干粒を残しつつもしっかりボケているように見える。人によってはうるさいように見えてしまうかもしれないが、桜のほうはf4で撮影してもここまでボケるのだから、まあ十分だと思う。
遠景


続いて遠景。最初の目黒川はf8、後者はf4。正直、絞り込むとほぼすべての同じ焦点距離のレンズの中での差がそこまでないように感じてしまう。後者の方で特筆すべきは、手前のボケもそれなりにしっかりとしたボケを出してくれるという点だ。それでいて、ピントの合う桜の描写がはっきりとできている。実はこれ本当にコスパいいレンズなのでは…?
入手例
相変わらず、中古市場で見つかったらラッキーなレベルでほとんど見かけない。そもそもK-マウントのサードパーティーの流通量は少ないのは宿命。ペンタックスでアポランターが使える数少ないレンズ。仮に見つけて、もし欲しければすぐ買ってしまったほうがいい。ちなみに筆者は、このレンズを4万せずに入手できた。
もしどうしても、ということであれば、例えばM42やニコン用マウントは比較的流通量も多いので、マウントアダプターでつなげる、という方法もある。ただし、マウントアダプターはまた別の沼への入口であり、購入には細心の注意を。沼もまた、こちらを覗いているのだ。
なお、筆者は購入後、なぜこのレンズが安く手に入ったのかを考えてみた。流通量の少ないKマウントの、しかもフォクトレンダーのレンズなのに…と思った。さっき述べたように、これの上位互換と言えなくもないDFA100mmが現行品であるからかなぁ、とか実際MFだし今の世代には少し難しいのかなぁ…とか。答えは闇の中である。
くどいようだが、筆者はこのSLモデルのデザインが好きだ。黒と銀があしらわれた外観、赤・緑・青の三本線。このレンズに筆者はどことなくクラシカルな印象を持っている。むろん、撮影技術にはまったく関係はないが、やはり持っていて自分の撮影欲が上がるのであれば、それはむしろプラス。ただし、K-マウントの当該モデルを探すのは本当に大変だった。
おわりに
いつもながら拙文で申し訳ない。
この頃、とくに望遠域のレンズを真剣に購入検討してしまうことがある。撮影仲間に鳥やら虫やら、ネイチャーフォトを撮影する人が多く、そのときどうしてもペンタックスファンである筆者は、「現行モデルだと頑張っても450mm(フルサイズの場合)」という壁が乗り越えられず、幾度となく実はNやらC、Sも増やそうかと思ったが、一生懸命自分の中の信仰を大事にしていった。悲しいかな、実際購入したところで、筆者の撮影がうまくなるわけではないという事実から目を背けられなかった。
なので、筆者は自分の撮れる範囲で、これからもカメラライフを送っていきたい。
それにしては持ってるレンズが沼すぎる?
まあ、それはそれで…
レンズは、あなたを深みへ誘う。
どうかよいカメラライフでありますように。
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