デジカメオールドレンズ沼の住人は9割がSONY民だと信じて疑わない系のマイナーカメラコレクターこと内匠亜(タクミア/タクミャー)です。
オールドレンズが好まれる昨今の風潮は、レンズ製造当時の技術力や設計限界によって生まれるボケやゴーストなどの”欠陥”、そしてそれをエモーショナルと言う風に検出する思考回路の持ち主が出会っちまった事で生まれたってのは皆さん十全に理解しているところだと思う。(という説もあるという程度にお受け止め下さい、編集者注)
無論こうした風潮は文化財保護につながるので大変いい動きだ。転売屋がのさばっていること以外は大歓迎ってもんである。
まあ流行の背景はともかく、オールドレンズをわざわざ使う理由がその描写にあるのなら、その癖を最大限に発揮できるフルサイズセンサー搭載機が歓迎されるのも当然の話になるだろう。舌なめずりしたくなる周辺部の流れやヴィネッティングは、やはりフルサイズであればこそ十全に味わえるというもの。
オールドレンズ民がαを使うのも非常に頷ける話だ。
ただ、諸事情あってどーしても手元にAPS-Cのデジカメしかねえって人も当然いらっしゃる……というか私もそうだ。では果たして我々APS-C使いはオールドレンズ沼に飛び込むことを許されないのだろうか?
んなわけねえよなァ?(なぜか喧嘩腰ですが、ほとんどの人はそんなこと言っていません、編集者注)
仕上がった写真が満足いくならセンサーサイズなんか気にしねぇでええのじゃ!面積ごときでイキる奴には作品で殴り勝てばええんじゃ!
……でも作品で殴り勝つために好みのオールドレンズを探すのが大変なのじゃ……今じゃクセ玉はどいつもこいつも総値上がり、さしずめトリオプランバブルなのじゃ……。
という方向けに、我が愛機・Fujifilm X-pro3で使っているマイナーなオールドレンズを紹介します。(ここからは筆者も冷静さを取り戻しておりますので、ご安心してご覧ください、編集者注)
以下、作例写真についてはフィルムシミュレーション:ASTIAにてJpeg撮って出しである。ご参考になれば幸いだ。
Xenagon35mm f:3.5について

そもそもこのレンズをどれだけの人が知っているのか、という問題がある。私だってAkarelleというドマイナーカメラを使用するまで名前すら知らなかった(上の写真は正しくAkarelleにXenagonを装備したもの)。
製造はSchneider-Kreuznach、言わずと知れたドイツ三大レンズメーカー(諸説あり)にして数々のメーカーへレンズ供給を行ったヒットメーカーである。超広角レンズとしてライカ判から大判まで幅広く展開したSuper-Angulon、クセノン型のネームレンズことXenonなど銘玉を挙げれば切りがない。
そんな中にあってこのXenagon、シュナイダーのレンズに多く共通するXen-で始まり”角/かど”を意味する-gonで終わることからまあなんとなく、4枚以上で広角なんだろうなということは察せられる名前である。
そう、このレンズ実は広角テッサー型なのだ。
ちょいとばかし珍しいだけ、と言えばそれまでの話だが、珍しいというのはそれだけで所有感が満たされて幸せになるものだ。広角テッサー型に分類される他レンズ(Wロッコール、エルマー、セレナー、タナー)がL39マウントであるばっかりに総値上げの煽りを受けている一方、特殊すぎるマウントなXenagonは売る側も判断つかずなのか、中途半端な安値で売られていることがある。
Akarelleマウント以外にもDiaxマウント(Akarelle同様スピゴットマウントだ)でも販売されていたようだが、価格はそう大差ないだろう。

外観を見ていこう。
M42マウントの35mmでは最も使われることの多いレンズの一本であろうSuper-Takumar 35mm f:3.5と比較したものがこちらだ。
タクマーが一眼用であることや構成の違いを抜きにしても、かなり小さいレンズであることがわかる。荷物に余裕がない時でも持っていけるサイズは評価できる。
写りについて
レンズ自体の紹介はこの程度にしておいて、早速どういった写りをするか見ていく。まずは絞りによる描写の変化だ。




以上の通りだ。
解放段階ではやはり、中央部付近でも解像感は不足しているように見える。またボケについては後述するが、前後共にやや暴れている印象を受ける。特に後ボケはざわざわとしているのがよくわかるだろう。
5.6まで絞ると画面全体がぐっと引き締まり、フレアの乗ったような白さもなく前ボケについても改善がみられる。被写界深度の面を考慮しても、常用ラインはこのあたりを下限にした方がよいかもしれない。一方で後ボケについてはまだ落ち着ききっていない。
8より絞った段階では後ボケも落ち着き、よく言えば整った、悪く言えば味気のない写りに落ち着く。
ボケについて
先ほど触れた後ボケを改めて確認しよう。なお作例は概ねf:4にて撮影している。

中央左奥の植物がとんでもないボケ方をしている。ここまでざわつくと流石に無視できるレベルではなくなり、寧ろこの表現をメインに据えた絵作りを行う方がよいのではとさえ思えてくる。
あるいは、これはエモい描写とやらになりうるのだろうか。
続いては前ボケを見ていこう。


前ボケについては、後ボケに比して周辺部でも暴れが小さいのではなかろうか。南天の枝葉は輪郭がある程度残っており、奥で水に溶かされたようになっている電柱よりも落ち着いたボケにとどまっていることがわかる。
フェンスの写真についても同様、流石に左右端ではやや流されているが中央下方のボケは検討しているといえる。この程度であれば、意図しない前ボケが発生しても邪魔になるほどではないだろう。

このサボテンの作例のみf:5.6で撮影しているが、このあたりであればボケが十分落ち着くことがよくわかる。
シュナイダーブルーについて
シュナイダーブルーと言う言葉があるのは諸兄もよくご存じだろう。シュナイダーのレンズで撮影したとき、シャドー部分などに淡く青色の乗ったような描写となることがままある事から出来た言葉である。
Xenagonについてもシュナイダーのレンズである。作例の中からシュナイダーブルーが発揮されたと思えるものをピックアップしていこう。




いずれの作例も、暗部やガラス部分へ薄く青みがかった描写となっている。色の組み合わせ次第では不気味さをも生み出しかねないが、この特性を生かした作品作りも選択肢に加えられれば強力な武器となるはずだ。
作例の中では、例えばカフェの写真は意図したとおりに色味を生かせたと自負している。
他作例





使用する上での留意点
本レンズはAkarelleマウントとやや特殊であり、筆者は現在以下の構成にて使用している。
Xenagon→Akarelle-L39変換→L39-FujiX変換→X-pro3
一番入手難度が高いのはまあおそらくレンズだが、次点で難しいのはAkarelle→L39の変換ユニットだろう。Ebayを覗くとアルミ削り出しのものがしばしば販売されており、ヤフオクでも同じものと思われるアダプターを見かけることがある。価格は1万円を下回る程度とやや割高に見えるが必要経費と思って割り切ろう。
またXenagonフィルター径が31.5mmと中々見かけないものであるため、特にレンズを傷つけないよう注意したいところである。
ただ、幸い前玉が奥まったところに配置されており、うっかり触れてしまうようなことはないだろう。
まとめ
シュナイダーの隠れた広角レンズ、Xenagon35/3.5のご紹介をさせていただいた。生産された年代なりの癖はあるものの比較的扱いやすく、またどこにでも持ち運べるサイズ感も相まって気軽に持ち出せる一本ではなかろうか。
一番のハードルは入手、となってしまうレンズではあるが、それだけの魅力を十分に備えた一本である。中々見かけないが、そう高いレンズでもないので見かけたら是非楽しんでいただきたい。
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