めくるめく古の鏡筒たち その5(Yashinon DX 50mm f1.4 vs 50 f1.7) -レッツゴー!覚悟!ゴ・ゴ・ゴ・ゴースト!-

執筆者:青狐

――命、燃やすぜ!

はじめに

 明けましておめでとうございます。

 本年もよろしくお願いいたします。

 さて本題。

「オールドレンズ、いいよね…」

「いい…」

 巷ではこのような何気ない会話、あるいはきっかけからふとオールドレンズの沼を覗いてしまう方が多いと聞いた。その沼は極彩色で、しかも誘引力のある作例なんかに魅せられた日には、もう手元にそれがないと落ち着かない…という。

 今回は、最近やたら中古価格が高騰してきている、Yashinon DX 50mm f1.7と、それよりも口径の大きいf1.4モデルの比較を行いたい。選定理由としては、以下の2つ。

①最近発刊されたオールドレンズのおススメ本でf1.7が紹介されており、広告効果によりやたら中古価格が上がってきているだけで、果たして現在価値が分相応なのか否か、ということを検討したいという捻くれた心を持っているから

②f1.7の上位互換とされているf1.4を購入した方が、f1.7を開放で使うよりもコスパいいんじゃあないかというオタク特有のクッソ気持ち悪いマウント性能の確認を取りたいから

 ということで、Yashinonレンズの初期モデルであるDXの開放値違いで、何らかの違いはあるのだろうか。

機材紹介

デザイン的にはほぼ同じのようだ
側面。いずれも最短撮影距離を示す。意外と銀の部分が前にせり出してくる

 どうやらこのDX f1.4モデルは、全部黒のモデルと筆者が持つクロムメタルver.が存在するらしい。DXf1.7についてもどうやら絞りリングがデコボコなものと、筆者の持つような丸いデザインのものとあるらしい。性能的には違いは存在しないらしいので、今回は特に深くは触れない。

(画像左:Auto Yashinon DX 50mm f1.4)

対応マウント M42マウント

フォーカス MF

レンズ構成 6群7枚

絞り羽根枚数 6枚

最短撮影距離 60.0cm

開放F値 F1.4~16

最大径×長さ 61.5 x 43mm

フィルター径 55mm

重さ 304g

 同じようなスペックを持つ、Super Takumar 50mm f1.4より、一回り大きいレンズ。あちらはフィルター径が49mmだったが、こちらはそれよりも6mm程大きいことになるため、そりゃデカいよな…という感想。実際、手に持ってみると、ずっしりとした重みを掌に感じることができる。また、こちらもF値も16まで、レンズ構成も既視感がある、と、やはりTakumarが出てきてしまう。ただ、このレンズは最短撮影距離が60cmと、若干寄れない!と思うことがある。寄るために作られたレンズではない、という意味だとすれば、後述するf1.7との差別化はできているような気もする。

(画像右:Auto Yashinon DX 50mm f1.7)

対応マウント M42マウント

フォーカス MF

レンズ構成 5群6枚

絞り羽根枚数 6枚

最短撮影距離 50.0cm

開放F値 F1.7~16

フィルター径 52mm

重さ 234g

 DXf1.7は、f1.4よりも一回り小振りで、かつ軽い。ではチープさが強いレンズか、といえばそうでもない。絞り環、ピントリングを回すときに感じる心地よいトルク感、金属の冷たさは決して安価なレンズでは感じられない。最短撮影距離も50cmと、f1.4よりは寄れる。が、以前紹介したような疑似マクロレンズほどではない、と、些か器用貧乏なレンズという印象が強い。

 ここまで、読者の皆様は、「なぜこのレンズをわざわざ紹介しているのか?」という疑問を持ったことだろう。スペックも、レンズ構成も、言ってしまえばなんとなく平均的な印象を受けるレンズである。ではなぜ、今回、このYashinon DXのレンズを紹介したいのか。特筆すべきは、今回に関しては、スペックではなく、その写りにある。

ゴ・ゴ・ゴ・ゴースト!

 これはDX f1.4を用いて逆光で撮影したものであるが、そう、このレンズは真逆光ないし半逆光のシチュエーションにおいて、非常にユニークな写りを我々に見せてくれる。現在デジタル一眼レフないしミラーレス用に設計されているレンズにはほぼ見られない、逆光時のゴーストがこれでもかと出てくるのである。

 読者のうち、深い沼底に棲む諸兄諸姉にとっては既知の事実であるだろうが、このレンズは富岡光学製とのうわさがあるらしい。それとは全く関係ないが、ヤシノンというだけで逆光には「弱い」とされてきた。ゴーストが発生する原因としては、なんだかよくわからないけれど、要するにレンズの中で光が乱反射しているから、とのこと。これまたよくわからないけれど、このヤシノンレンズは殊更に内部乱反射が強いのだろうか。

 一応、このゴーストを消すためなのか、レンズの回りの銀の部分が、若干フードのような形になっている。とくにf1.4の方についてはそれが顕著であり、のちの作例にあるように、あえて影ができるような部分があるようだ。

シチュエーション別作例

 シチュエーション別…といっても、このレンズの真骨頂は逆光時のゴースト表現なのかな…と思うので、作例としてはほぼゴーストを出しているので悪しからず。

DX f1.4

半逆光。弱めのゴースト
光源入りの逆光。ススキを囲むゴーストがいい…
絞ってもヌケのいい、気持ちのいい写りを出してくれる

DX f1.7

光源を右下にした逆光。こっちのゴーストの方が形が綺麗?
光源をしっかり写した1枚。綺麗なゴーストが印象的

 とりあえずの比較としてはf1.4の方がゴーストの出方が大きいくらいか。

 続いて、同じ位置から同じ構図で撮影した一枚の比較。なお、いずれも開放のため、シャッタースピードを変更したのはご了承いただきたい。

DX f1.7
DX f1.4

 比較してみると、先述したように、f1.4のゴーストの環が定規で引いたかのように途切れている。これは、レンズ周りのせり出したフードのような部分が、レンズへの入光を遮っているためと思われるが、やはり大口径であるからか、ゴーストの出方が派手である。

 こうして比較してみてわかったが、ゴースト以外の項目についてはそこまで大きく差はないような気がする。開放が数段違うのはそうだが、ぶっちゃけそこまでベン図的な包含関係は見られなかった。つまり、f1.4を購入する意義は、明るさとゴーストの派手さ以外を狙う以外は特にないのかもしれない…ってコト!?

入手例

 中古市場でまだまだ探せば見つかるレベル、といった印象。しかし、大雑把に書くと、f1.7は約10千~15千円くらい、f1.4は20千円~、となっている。先に述べたように、単にゴーストを出したい!というのであればf1.7を買えばいい気もするが、派手なゴーストの表現を楽しむならf1.4、というチョイスもありかもしれない。個人的には、お前ェの舌は何枚あるんだ!と言われても、やっぱりレンズ1個で開放値f1.4出せるならそっちもいい気もするが…。

 何かこう、歯にモノが詰まったような表現で恐縮だが、果たして現在の中古市場において、特にf1.4について、そこまでの価値があるか?と言われると首を傾げざるを得ない。だってTakumar 50/1.4でも出せるんだもんなぁゴースト…。あのゴーストの出方にお金を出せるなら、f1.4の方が見つけづらいので、もし割引クーポンとかが使える某クマとか某オクで見つけ、かつ20千円を切るようであれば積極的に購入を検討してもいいかもしれない。とはいえこれを読んでいる転売ヤーの皆様は、ぜひもう少し何というか、こう、手心というか…。

Takumar 50/1.4でも出せるゴースト

 そうそう、それで最初に掲げた2つの今回の掲載動機については、以下の通り。

①:今の価格のつき方は多少、分相応だと思う(特にf1.7)。ただし、f1.4に関しては、正直割高感は否めない。だって同じスペックならTakumarがあるもの、と思ってしまう。もしf1.4を積極的に買う理由があるとすれば、購入者が大口径主義であり、かつ派手なゴーストが欲しい場合だろうか。

②この二つのレンズの基本思想が違う気がするため、ベン図的な包含関係に置くのは少し難しい(=要するに次元が違う、ということ)。あくまでも個人的な感想として、f1.7はスナップというか、割とシチュエーションを選ばず使える反面、f1.4はポートレートを念頭に置いているのではないか?と思う(最短撮影距離を勘案するに)。でも10cmは誤差、ということであれば、f1.4を買った方が機材スペースの圧縮につながる可能性は高い。

おわりに

 今回は巷で有名なゴーストレンズを紹介した。所謂、王道を往くDX f1.7と、それの上位互換とされているDX f1.4の比較であったわけだが、正直筆者の撮影技術の力量不足感は否めない。それでも、やはりいずれもゴーストを出すという必要十分条件は満たしているので、予算(と自身の感覚)に合わせてお好きなほうをチョイスされたい。

 でもまあ、さっきちょろっと出したTakumarのゴースト作例を見る限り、Takumarはささやかな出方。Yashinonほどの派手なゴーストは期待できない。なんかネガティブな書き方しちゃったけど、ゴーストもフレアも表現だ!という熱い表現者(沼人)がいらっしゃれば、是非一度試していただきたい。筆者も、このレンズを買ってからというもの、積極的に逆光を撮りに行けるようになった。近年生産のレンズは逆光性能も高いので、ここまで大きく派手にゴーストは出ないが、それでもライティングについて意識するいい契機だったように思う。ていうかむしろ買った方が確実に新しい扉が開く。

 もっと言えば、個人的には、このレンズは、是非ゆるふわフォトを目指している方に強く勧めたい。むろん、Takumarの方が、コスパ等総合力が高い気もするが、Yashinonレンズは何度も言うように、ゴーストがはっきり出るし、フレア(これが強いと低コントラストな写真となり、ふんわりとした、白っぽい幻想的な雰囲気に仕上がる)もかなり強い。ものの本には逆光には「弱い」なんて書かれているけれど、筆者から言わせればむしろそれが「個性」である。見方を変えれば、現在、あらゆる場面において、こうした「弱み=欠点」を「個性=強み」というように見直されてきている昨今、カメラ業界にも多様性が認められてきているという証左ではなかろうか。SDGsである。

 今回のサブタイトルは、某特撮ヒーロー平成17作目の変身ベルトから鳴る音。このめくるめく古の鏡筒たちシリーズも5作を迎え、なんか「5」つながりでないかなァと思って、最初はオルフェノクの出るシリーズ(555のこと)にしようかな、と思っていたけど、やはりここはゴースト、ということでそのままズバリのタイトルにした。もしくは、ちょっと古い映画だけれども、「ゴースト/ニューヨークの幻」からどうにかしてもじってみようか、とも思ったけどあの映画はラストの感動要素とか切なすぎてちょっと筆者の執筆テンションと合わへんなァと思ってやめた。主人公である天空寺タケルの決め台詞も、ちょっと見方を変えると沼人の機材への熱い思いを語っているようにも聞こえ…る…?

 レンズは、あなたを深みへ誘う。

 今年もどうかよいカメラライフでありますように。

「めくるめく古の鏡筒たち」シリーズは他にもありますので、こちらもぜひ合わせてご覧くださいませ。

コメント

  1. […] めくるめく古の鏡筒たち その5(Yashinon 50mm f1.4 vs 50 f1.7) -レッツゴー!覚悟!ゴ・ゴ・ゴ・ゴースト!- […]

  2. […] めくるめく古の鏡筒たち その5(Yashinon DX 50mm f1.4 vs 50 f1.7) -レッツゴー!覚悟!ゴ・ゴ・ゴ・ゴースト!- […]

  3. […] 前回 と同様、同じようなスペックを持つ、Super Takumar 50mm f1.4より、一回り大きいレンズ。また、Yashinon DXと同じくらいの大きさだが、作られた時代が新しい分、レンズの質感自体はPlanar Z […]

タイトルとURLをコピーしました