紳士淑女諸君
写真機に奇異を求めてやまぬ掛け替えのない同志たちよ。我は、北陸の地に随一と謳われる写真家、菊池あきである。拍手はやめたまえ,拍手は。恥ずかしいではないか。
今宵紹介するレンズは、正直、君たち選りすぐりのディレッタントには物足りないかも知れぬ。だがメジャーを強いて避けるのも成熟したあり方ではあるまい。むしろ、大衆的によそおうのも「新趣向」の遊戯ではないだろうか?
すまない、前置きが冗長になるのはいつもの悪い癖だ。
本日の贄はこれだ。かの大企業の高級レンズ。
Canon FD 135mm F2
組み込み式のフード、ゴム巻きのフォーカスリング、視認性のいい白と緑の文字。いかにも実用的でソツなく、欠伸がでそうではないか。
だが、「頭のまともな」連中ならこう言うだろう。「肝心なのは写りの方だ」と。ならば今宵限り実直ぶって我々も、写りの方を見ていこうではないか。
開放絞りからF16まで、同じ被写体を撮影した。少し上下を切ってあるのは勘弁してほしい。
色合いは破綻なくバランスが取れていて、解放からシャープさと自然なボケを併せ持つ……
もし当時プロの写真家だったなら、最高の道具だっただろう。機構も写りも何のストレスを感じさせないこのレンズは、喩えるならハルシオンだね。危うくカメラを構えたまま眠るところだったよ。
αのギロチンみたいなシャッター音がなかったら間違いなく夢の世界へ旅立っていたところだ。
さて、次はボケ味を見てみよう。こちらはノートリミングだ。
この時代の大口径レンズとしては驚くほどに美しいボケが……、すまない、寝台を用意しておくべきだったね。なんにせよ、まったく素晴らしいレンズだ。私の所持しているどんな135mmより確実に端正な画が出てくる。
おわかりの通り、これは絶対に買わないね。
必ず勝つと分かっているクリケットに観衆が集まるかい?
さて、そろそろ真面目なカメラマニアの皮は捨てて、日の差さぬ沼の住人に戻ろうではないか。
きれいなだけの作例は、ここに置いておくよ。
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